2007年06月10日

16

陽射しの中に歩み出たものの、パン屋がひどく遠い。
ターニャの頭の中に渦巻くものと対話しながら
歩けば、自然と足並みが緩む。
サーシャのニュースは姉としてまず、嬉しい。
だけど、養成所を造る・・なんて考えはターニャにはない。
なによりも、自分の踊りの才能が認められていないのに、
ううん・・・。
才能が無いのに、認められるわけも無いけど。
それでも、
認められるほどの才能も無い人間が
人に踊りを教えようなんて
思いあがりもいいところ。
たとえ、自分の稼ぎでスタジオを作れるほど資金ができたとしても、
それでさえ、
考えもしないだろうに、
妹におんぶされて、
道楽のように、
濡れ手の粟を芽吹かせて・・・
はたして、
充足するだろうか・・・。

するわけがない。

どうすれば・・・。
何をすれば・・・。
心から満足できるだろう?
今の私は・・もう、踊りからにげだしたい。
それだけ・・・。
だけど・・・。
ターニャはしごく当然の事態にやっと、目をむけた。
「だけど・・・?
だけど・・・。
サーシャへの仕送り・・がある?
ううん。
もう・・・サーシャはひとりで、十分にやっていける。
だったら・・
私・・?
私は無理にアフターで踊らなくてもいい?」
つい、昨日までは、
たとえ、アフターであっても
踊りを続ける理由があった。
しかたなくでも、
どうしょうもないからでも、
とにかく、
踊りを続ける理由があった。
サーシャの自立。
アフターで踊り続けている限り、寄せてくるパトロンの申し出。
そのふたつの事情が
踊りを続けていく原因を打ち砕いていた。

ターニャに残ったのは
いくつもの壁の影に隠されて
読み取ることが出来なかった本心。

踊り続ける為のなんの理由もなくなった今、
ターニャの本心だけが問われる。

「踊りたいの?
やめたいの?」

自分に問う言葉がいっそう、
ターニャの足取りを重くする。

やめるに、未練がましく、
続けるに覇気を欠く。

やめるにたりる納得もない。
続けるだけのひたむきさもない。

たんに・・・。
長年慣れた「踊りのある暮らし」から、
自分を引き離すのが、苦しく、怖いだけなのかもしれない。

つまり・・・惰性?

それとも、
保守的?・・・。

自分の生活を・・
環境を・・・
今まで、積み重ねたものを・・・
くずしたくないだけ・・・?

『私って・・こんなに、臆病な弱虫だったっけ?』

自分の可能性に手を伸ばそうとする間は
きっと、人間は成長する。

ただ・・の足踏み?
停滞?

また・・歩みだせる?

歩みだしても・・・
もう、踏み出せる舞台はない。
才能の薄い人間を舞台にいつまでも立たせておくほど
舞踏の世界は甘くない。

それを、身をもって知った今。

華のあるうちに、引退するのが引き際なのかもしれない。

「潮時・・・なのかな・・・」

アフターに行くしかない自分への
イワノフのプロポーズ
いっそう、ターニャを惨めにした。

間違いなく、
才能の無い自分とレッテルを貼られたようなもの。

それなのに・・・。
イワノフの求婚を受けたら・・・。
才能のなさのせいで、踊りから放逐され、
あげく、行き場所をなくして、イワノフにすがるしかなくなった。
そんな自分でしかないと思えて、
救いの手を差し伸べるイワノフと思えば思うほど
救われる自分の哀れさがいっそう深くなった。

踊りに関わっていれば、
いつも、自分の惨めさと向き合わされる。

『カタリナ・・・。
あなたのいうとおりよ。
私は自尊心ばかり強くて
踊りたい・・・だけじゃ・・・やっていけない。
かといって、
やめるのさえ・・・自分が納得出来ないから
それも・・できない。
あなたの言うとおり・・・ちゅうぶらり・・。
中途半端・・・』

いつのまにか辿りついたパン屋のドアを開くと
ベルがからりんとターニャの来店をしらせ、
パン屋の主人の元気な声がターニャを歓迎していた。
「やあ、いらっしゃい」

すがすがしい笑顔は・・・
きっと、自分の仕事に誇りと自信があるせいだろう。
「あ、いつものを・・・。半斤・・・2、5cmにスライスしてちょうだい」
おずおずと、注文をつたえると、
主人はぺこりと頭を下げた。
「もうしわけない。
朝の釜のぶんが全部うれてしまってね。
次の分を焼いてるんだけど・・・。
もう少し時間がかかると思うんだ。
急ぐのかな?」
「いいえ・・・大丈夫よ」
「そう?だったら、そこの椅子にでも座ってまってる?
紅茶を出すよ。
用事があるなら、そいつを先にすませてくれてもいい。
ター・・・えと、ターニャさんの注文のパンは
ちゃんと、とっておくから・・・」
人恋しさも手伝うか、
主人の温かい気配りが身にしみた。
紅茶を飲みながら
この居心地の良い店でパンが焼きあがるのを待つことにした。

posted by 憂生 at 23:42| Comment(0) | ・・・踊り娘・・・ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年06月09日

15

15

午後から新しい出し物の打ち合わせがある。
だから、ゆっくり、寝ていればいいのに
やっぱり、目が覚める。

起き抜けに珈琲をいれて・・・。

そう。

朝のパンがないんだ。

忘れないためには、先手をうつのが一番。
サーシャの手紙を読んだら、
パンを買いに行こう。

今日の予定が、出来た。
とても単純なことだけど、
買い物にでかけるのは、
なんだか、心弾む。

日差しのやわらかい朝。
そろそろ、ライラックが咲き始めて
きっと、通りも甘い香りに包まれている。

『あたしって・・・単純よね』
芽吹きの季節は心を和ませる。
でも、もっと、私は簡単。
焼きたてのパンのかぐわしい匂いが好き。
だって・・
パンは命を紡ぐ糧だもの。
きっと、あの香りに生きてるって
実感がわくんだわ。
これって、単純じゃないかも・・・。
なかなか、哲学的だわとターニャは苦笑をこぼす。
でも・・・。
ふと、ターニャの中にちかりとひかる思いがわく。
その実体をつかもうとすると、
もやのように胡散霧消して、
それが、なにか、分からないまま、
ターニャはサーシャの手紙に手を伸ばした。

少し深呼吸してサーシャの手紙を開く。


***姉さん・・・いろいろ、心配と負担をかけてしまってごめんなさい***
いきなり殊勝な妹が手紙の中に現れる。
「やだ・・。らしくないよ」
文面に返事して次を読む。
***姉さんのことだから、仕送りをしてやろうって、また、無理してない?
え?そんなこと思ってなかった?のに、それじゃ、ねだってるのも、同然?****
「うん・・・それは、強請ってるよ〜〜」
****だけどね・・・。
大丈夫だよ。と、いうのもね・・・*****
そこまで、書かれた文面は次の便箋に続いてる。
「やあね・・・。もったいつけちゃって・・・どう大丈夫か・・次?」
便箋をめくると・・・。
***驚き・・・驚き。
まさかそんな話があるなんて・・****
「あら?らら・・なによ?」
***キエフに来て、最初に、オーディションがあったんだよ。
なんのオーディションだと思う?***
「なんだろ・・・」
サーシャのニュースにターニャの目が奪われ
手紙への返事も口から出なくなる。
ターニャは次の内容を何度も読み返す事になった。
***映画を創るんだって。
アラベスクってタイトル
ソビエトの舞踏家達を集めて、
大スペクタクル・・。
ストーリーはアラビアンナイトから
アレンジするらしいんだけど・・・。
その映画のヒロインのオーディション。
だったんだけど・・・。
*****
どうやら、くだんのキエフの大物舞踏家が自ら監督件主人公。
相手役のヒロインを以前から捜していた。
候補は何人か上がった。
外見も踊りの実力も兼ね備えるものの、イメージにピッタリとはいかず、
見切り発車するしかないと、候補者を絞り始めた時にイワノフから、サーシャのビデオが送り届けられた。
この時点でもう、アラベスクのヒロイン有力候補の最前線にサーシャがたっていたのは言うまでも無い。
形だけのオーディションを行い、
満場一致でサーシャに白羽の矢がたった。

***来月から、クランクインするって、
もう、毎日踊りのレッスン
おまけに、
アラビアの象形文字の中に踊りの基本スタイルがあるって、アラビア文字を毎日勉強してるんだよ。
でね・・・。
今日、契約書を書いてきたんだ。
ビックリするよな・・金額だよ。
姉さん・・あのね・・。
もう、アフターで踊らなくても
養成所でも建てて
小さな子供達に踊りを教えるとかさ・・。
そんなこともできるんだよ。
考えておいて・・・よ。
そのほうが姉さんの踊りへの情熱を
活かせると思うから・・・****

サーシャのニュースの大きさよりも
ターニャの胸をえぐったものがあった。
『情熱・・・?』
そんなもの・・ない・・よ。
そんなもの・・ないのに・・
養成所?
そんな事にあなたのお金を使わせるなんて、
もったいないだけ・・・。
もっと、あなたの役にたつように・・
使わなきゃ・・』
「あ?」
サーシャに語りかけた心の底に、
きらりと一条の光が差し込んだ。
さっき、胡散霧消した閃きと同じもの。
それがくっきりと姿を現していた。
『役に立つ・・?』
それが、ターニングポイントを作り出すキーワードだったとは、ターニャは思いもしなかった。
posted by 憂生 at 23:10| Comment(0) | ・・・踊り娘・・・ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

14

舞台がはねたというのに、帰宅の足取りが重い。
少し前までなら、サーシャと並んで帰る時刻は
充実感につつまれていた。
家に帰るという事は、ひいては、明日への準備。
また、半裸身でおどるために身体を休めるだけ。
食事・・・をとって、風呂に入り、それから・・・。
なにもする事が無くなっている。
とりとめないお喋り。
サーシャに癒されていたくつろぎの時間も今は無い。
物思いが流れるままに
とぼとぼと歩くターニャの目に映る町並みも暗く
店々の多くが戸を閉めている。
「あ・・」
うっかりしていた。
イワノフとの話しのあとに、
パンをかっておこうとおもったのに、
そのまま、劇場にはいってしまって・・・。
いつものパン屋は・・・もうすっかり戸締りをし終えている。
無理の無いことだろう。
ただでさえ、
朝の早い仕事。
こんな遅くまで店を開けているわけが無い。
どうしようか・・・。
最近、増え出したコンビニエンスストアも、
ココから歩いてだと、15分。
それも逆に引き返さなきゃならない方向。
ココまで、戻ってくるのに
30分・・・・。
それから、家まで・・・。
もう・・いいや・・。
わずかな、時間でしかないと思うけど
それさえ・・・もう・・だるい。
家に帰れば・・なにか・・あるだろう・・・。
ターニャは明日まで、空腹を辛抱できるだろうと
向きを変えず、歩き出した。

暗い部屋。
灯りをつけるのも自分。
まだ、薄ら寒い季節の深夜の部屋は
人気がなかった分いっそう、冷たく寒い。
小さな溜め息をついて
冷蔵庫を開けてみる。
ヨーグルトと卵と牛乳とレタスとベーコン
おかずデザートがあるけど、肝心の主食になる物がない。
パスタ・・もない。
小麦粉・・は?
パンケーキでもと覗き込んだ袋の中にわずかに小麦粉が残っていた。

 


サーシャがキエフにいってしまった後
ターニャがアフターで踊るようになって
買い置きもあまり足してない。

パンを千切ってミルクで飲み込んで
なんだか、マトモに食べてないから
なにも、買ってないのか、
買って無いから・・マトモに食べてないのか。

いずれにせよ・・
なにか、パンケーキ?でもたべるしかない。

ふと瞳をずらしテーブルの上のサーシャの手紙を見つめる。
なんだか・・・。
それも、今は読みたくない。

きっと、栄光への足跡でしかないサーシャの手紙は、
今のターニャが読むに
引き比べてしまう自分があまりにも惨めでみすぼらしい。

明日・・。
今・・それを読んだら、きっと、ねたみとうらやましさで・・・
悲しくなる。
サーシャの手紙は暖かなまなざしで読みたいと、思う。

きっと、くたびれすぎてるせい・・・。
ゆっくり寝れば・・・もう、大丈夫。
明日・・
明日・・・
朝一番で読むからね。

サーシャの手紙にわびると
ターニャはパンケーキをつくるために、
まず、エプロンに手を伸ばした。



posted by 憂生 at 00:09| Comment(0) | ・・・踊り娘・・・ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年06月08日

13までの経緯/踊り娘

突然、踊り娘・・13を移行してきましたが、
なんじゃ、それ〜〜〜〜〜って気分でしょうか?
今までの話はブログ人にて、メインブログちゅ〜か
総本山というか、
マザーベースというかああああああ。
「hakujya」と、銘うったブログ。
そちらに、いれてます。

ここは、そも最初にブログをはじめた場所で
カテゴリー数もかなり設けられ
何よりも、1スレッドの収容量・・・
タブン、上限がないのでは?
お登勢の13万文字でさえ、1スレッド収納
多少開きにくいという難点はありますが、
いろんな面で利便性に富んでいるので、
最終的にはここに全部持って行きます。

物語中心で掲載していたのですが
最近、シーサーやアメーバーやジュゲム等などに分散させていた日記も編集しました。

どこかで、おちついて?
物語を書きたいとまだ、模索中では、ありますが、
とりあえず、続きをココで書くために・・と銘打ったこのブログに舞い戻って着ました。

踊り娘↓


http://hakujya.blog.ocn.ne.jp/hakujya/cat1536388/index.html
posted by 憂生 at 23:29| Comment(0) | お知らせ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

13

急かすだけのことはある。
カタリナが今日の出し物のトップ。

カタリナをみおくって、
舞台の袖にたった、ターニャは
カタリナの踊りに釘付けになった。

演目はオリジナル
ストーリーがある。
街角に立つ娼婦。
それが、カタリナ。
曝け出した胸を誇り
ストリートを闊歩する紳士を
こまねく。
だけど、だれ独り、カタリナの誘いにのってこない。
あれやこれやの術を使い
しなをつくり、
胸を揺すり
カモン・カモンと指をうごめかす。
それでも、誰ひとり、カタリナにふりむかない。
強行手段のカタリナは歩く紳士の手をつかまえ、
自分の胸に触れさせてみるけれど・・・。
これも、ダメ。
ふてくされて、路上に座り込むカタリナ。
そこにチャチャチャ風にアレンジされた
シャル・ウィ・ダンスが流れ出し
通り過ぎると見えた紳士が
カタリナに手を差し伸べる。
「シャル・ウィ・ダンス」
なんですって?
「♪シャル・ウィ・ダンス」
どうせ路上の接客業
お客様の望むとおり。
と、カタリナが踊り出すと
さっき通り過ぎた紳士や
今、通りぬけかけた人達まで
立ち止まると
いっせいにチャチャチャをおどりだす。

カタリナの心そのもの。
身を売るんじゃない。
踊りたい。
踊りたい。

舞台の華と化したカタリナはあでやかだったけど、
それ以上に
「なんて、楽しそうに踊るの・・・」
役になりきって、
ただただ、踊りを踊る。

誰もカタリナに変な好奇の目を向けていない。
本人にとって楽しい。
それだけで、見ているものまで楽しくなる。

踊りは・・・
本来そんなものなのかもしれない。

楽しくて、楽しくて、仕方が無い。

それだけのもの。
そこが、原点。

『私は・・・むしろ・・・
踊り続けていくために
苦しんでいる』

それは、
踊りに対して・・・
あまりにも不誠実。

『でも・・・私は・・・
やっぱりたのしめない。
胸をさらすのは、
どうしても・・・苦痛』

でも・・・。
どうしようもない。
稼がなきゃならない。

心の自由をなくし
枷をはめられた踊りを
みていても、
観客だって楽しくない。

むしろ・・・・。

その苦境からすくいだしてやりたい心境に駆られる。

だから・・・。

13件?

『私は自分を映し出した鏡を見て
嘆いていただけ?』

いっそ、舞台にあがることは、あきらめて、
独りの部屋で自由に踊りつづけるだけ。
そんなふうな趣味として・・・
踊りたい心をもっと大事にできたかもしれなかったのに・・・。

ひどく、イワノフの笑顔が恋しく思えて
ターニャは
自分の肩を自分の手でなでさすった。

「そう・・・。
私は独りで生きるしかないんだから・・・。
がんばらなきゃ・・・」

ターニャの出番はまだ、先。

すこしだけ、カタリナのいう事が
理解できたと伝えに行こうと
ターニャは思った。
posted by 憂生 at 20:59| Comment(0) | ・・・踊り娘・・・ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年05月27日

移行ニュース

同じくまだ、未完成ですが、洞の祠も↓に移行します。
1スレッド全文掲載ですので、書かれた続きも本文の下に追加しています。
確か・・・もう、7〜8万文字になっていたと思いますので、
下までたぐるのもたいへんだと思いますが・・・・。
同じく、憂生’s/白蛇(シーサー内)にても、分割掲載しております。
 
http://hakujya.blog.ocn.ne.jp/hakujya/2007/05/post_b6d2.html
 
posted by 憂生 at 11:04| Comment(0) | お知らせ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

アマロ・移行します。

まだ、書きかけのままですが、かけているところまで1スレッド全文掲載のブログ人に
収めている「アマロ」にリンクしておきます。
同じく憂生’/白蛇(シーサー内)にもアマロは分割掲載しております。
 
http://hakujya.blog.ocn.ne.jp/hakujya/cat2134096/index.html
posted by 憂生 at 10:28| Comment(0) | お知らせ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

移行しました。

新之助シリーズ第9話、なんとか、完成/う〜〜〜む?/しました。
と、いう事で↓におさめました。
 
http://hakujya.seesaa.net/article/40701156.html
 
ココの9話、団子が食いてえ〜〜〜〜〜〜は、
削除します。
posted by 憂生 at 10:05| Comment(0) | お知らせ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

メモ。

届かなかった短筒を目の端にとめた竜馬の脳裏に慶喜の顔が浮ぶ。
「この先の日本丸を・・・」
大政奉還の進言に慶喜が返した言葉の一端であるとは、知らぬ渡辺篤であるが、
その刃でついえた者の魂の所在の大きさが
渡辺の胸をえぐった。

とんでもない人物の命を奪い去った。
その悔恨があとになるほど、深くなるとも知らない。
竜馬の命が消え果て、
わずか後、南州公の謀反とも思える暴挙である、西南戦争の時、
渡辺篤の胸中に沸いたのは
その時の竜馬の言葉であった。

「この先の日本丸を・・・」

渡辺の瞠目が開かれても
もう、
竜馬は居ない。

この渡辺篤が竜馬をついえた。
日本丸を思う誠の志士を
この渡辺がついえた。
posted by 憂生 at 10:00| Comment(0) | 竜馬をかけないか? | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

長い・・ほざきである。

あれや、これや、時代物がかった読み物をかいていますが、
本来は明治維新。
特に坂本竜馬が好きです。
竜馬を好きなのは、その考え方といっていいかな。
竜馬は実に単純で純心だと思います。
薩長連合を提示するにしても、
普通なら、そんな事ができるわけがないと、
思っても、実行にうつせない。
ところが、
「仲よくすりゃ、いいじゃないか」
できない事じゃない。
大政奉還にしろ、同じ。
あの状況のなか、そんな考えをもちだしていけば、自分の身だって危ない。
だけど、慶喜にとって、一番良い方法をあっさり、・・・誰だっけ?を通して、進言する。
時期的にうけいれやすい状態だったにしろ、
歴史の引き金をひく。
こんな事をあっさりやってのけた。
その竜馬でさえ、
天の思惑と、ずれた方向に動いたとしか思えない。
竜馬の思想はグローバルな見解の上になりたっていて、竜馬はいずれ、世界貿易などに進出してゆくつもりであったろうと、きく。
そのグローバルな見地からみれば、
小競り合い。身内争いの薩長の輩など、
「仲良くすればいいじゃないか」
と、一笑で片付けられる手のひらの上の問題でしかなかったと思われる。
大政奉還も又、同じ。
日ノ本の国をおさめてゆくに、
最善の方法をかんがえたにすぎない。

その竜馬が強刃の露になる。

犯人は不明であるが・・・。

運がなかったとはいわない。

竜馬が天意にそったのは、ここまで。
あとは余分だったと、思う。

世界貿易とか・・・。

外国の商いが日本に入り込んでくる。
マネー本意の生活が今、まさにそうであるが、
これが、人心を殺伐としたものにする。

その一番のきっかけを明治維新のその頃に
もちこんでゆくことは、危険だったと思う。

ましてや、
裏の実力者ともいえる、竜馬が交易に従事したら、あるいは、日本は竜馬の植民地のごとく。

コレは、無論、竜馬が望んだ状態ではないが、
竜馬の持つ背景が竜馬を一国の統治者にしたてあげてしまわない。/むろん、外国勢からみてではあるが・・/その外国勢の圧力ほどおそろしいものはない。

時代に早すぎた寵児はいくらか、時代のよどみの堰をきった。
そこまで。

天は竜馬の速足をとどめた。

暗殺の首謀者は誰か。

ときおり、取りざたされているが
本当の首謀者は天であり、
天を動かしてしまった竜馬本人が引っ張り込んだ結末としか言えない気がする。

と、まあ、時代考証以前のもっと、無形のものへの畏れという観念にたつと、
こんな考え方が荒唐無稽すぎて、
理解の範疇になるまいと思う。

だが、南州公/西郷隆盛/が、愛した字句がある。

敬天愛仁/人だったかな?

天を敬い、人をいつくしむ。

その頃・・の儒学などの思想であろうが、
当時の人々は「天意」という観念をいつも意識していた。

余分だが、この考えのさいたるところが、
新田二郎の八甲田山彷徨だっけ?
「天は吾らみはなしたか」
あるいは、
おい、度忘れ。
至誠通天?
誠を持って処すれば天に通じる。

こういう風にその思い方はいまも痕跡?をとどめているが・・・。

かくのごとく、
天という存在が日本人の道義の尺になっている。
この考えを含めて明治維新の人々の思いを
見つめなければ、理解は出来ても、納得出来ない部分がある。

と、憂生は思っている。

そして、その上での史実との符合。

とても、
書けない。

書けないから、思い半分の物語で茶を濁しているのが実情。

なさけなか〜〜〜。
posted by 憂生 at 09:59| Comment(0) | 竜馬をかけないか? | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

おもいおこしすぎた・・・。

 

      

おもいおこせば、

最初に書いた長編

精神的雌雄同体のはなしであった。

双生と言う設定も既にこのときにある。

姉妹と言う設定。

姉を護りたいと思う妹は

「男」を演じる。

こう言う形で姉を支え続けてきた妹に破局は訪れる。

姉の恋。

自分の役目が終わるとき、

妹は

又、自分も女に過ぎないことを

姉に見せ付ける手段を選ぶ。

妹をもまりきり、受け止めることが出来る

相手もまた、『男」である事実に

姉は自分を支えてくれた妹が、

恋人とともにいきろ」と、メッセージをたくしたとしる。

半ば中性的な少年と妹の性描写は

おしむらく、この時点ではこなれたものでなかった。

護るという男視点で生きてきた妹が

本当に

「女」になり切れるか、どうか。

この先に

変化してゆく、妹をどう、とらえてゆくか。

第2章に突入しようとした矢先。

憂生は断筆宣言をした。

書ききれる自分がいない。

想像することさえ出来ない。

まだまだ、人生に入り込んだばかりの年齢。

いつか、かけるときがくるまで・・・。

封印はまだ、とけない・・・。

posted by 憂生 at 09:52| Comment(0) | お知らせ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

またも、能書きか?あるいは、講釈たれ?  

何やかやと、昔の構想をひっぱりだしてきて、
あちこちのブログと提携して、
結局、6編か?
連載してるんだけど・・・。

リンクの最後のブログに上げている、
『踊り娘』はある意味、
私小説的感情が投影されているといっていい。

もちろん、踊りなんてことじゃない。
やっぱし、物を書くということだろう。

出版社に投稿を繰り返し
どの作品も出版奨励はいただいたし、
白蛇抄は最終選考まで残った。

それでも・・・。
結局入賞や企画出版/入賞は別として企画出版の定義を聞くと企画出版はまずアマチュアでは、無理だと思うが/に持ち込めない自分の
限度にいらついていた頃だと思う。

担当者の熱心な誘いをうけながら、
考えさせられていた。
結局、入賞に値するほどの
真価の無いものを
金の力に任せて/その金も無いが・・・/
出版したとて、どうなるであろうか?

大いなる金を払ってまでの自慰行為。

こう結論して出版を見送った。

そして、その頃に
「踊り娘」を書いたと思う。

踊りが好きな姉妹。
才能に恵まれた妹と
三流の踊り娘に格下げされる姉。

二人に共通する思いは
「踊りがすき」

だが踊りが好きなだけじゃ、
今までどおり踊り続けていられない。

自分のうちから沸いてくる
『好き」『踊りたい」
と、いう気持ちがそのままに開花しない。

それでも、
「踊りつづけてゆく思いいれ」
が、秤にかけられるとき。
天秤を揺らす
イワノフのプロポーズ

平凡な結婚の日常に
『踊り」はない。

・・・・。

憂生は立場的にターニャだったろう。

ただ、ものを書くときにおいて
舞台は必要じゃない。
ん?
コレは踊りも同じか?

発表するときにおいて
初めて舞台が必要になるのであるが、
踊り続ける
書き続ける

自分ひとりの舞台において
それは出来ることである。

だが、発表することを考える前に
もっと、最初に問われる物事がある。

書き続けたい『思い入れ」
踊り続けたい『思い入れ」

こんな風に自分の気持ちを投影させた部分がある。

もちろん、物語は
憂生のことではないので
ターニャは
それなりの結論をつかまえることであろうが、

「才能のある人はいい」
このどこか、いじけた思いは
憂生の本音だと思う。

その「いじけ」から立ち上がらせてもらうためにも、憂生は書いたものを発表してゆく。

三文小説でいい。
陳腐な表現でいい。

開き直って云う。

作品は読まれてこそ。

いつか、レイも読んでくれたアスペクト。

「作品がうなり声をあげているんだ」

少なくとも
憂生にはそのうなり声が聞こえる。

『読んでほしい』
作品自らが唸りを上げるものを
書いてゆきたい。

posted by 憂生 at 09:49| Comment(0) | お知らせ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

スランプというと、きこえがいい。

新作をかこうかと、

構想は練った。

題材は狂気の狭間に住む女性。

視点は彼女の夫、あるいは恋人というか・・・。

相変わらずの性描写からはいり、

男の視線から彼女の現状をぶんせきしてゆく。

彼女の精神は浮遊し

相手を認識することすらない。

この結びつきは、

男にとってなんであろう?

単なる欲求の解消であろうか?

愛情の確認でありたいと思っても

これは一方通行でしかない。

彼女は男の愛情を認識しない。

それでも、男は彼女を抱く。

「したたりおちるものは、

身体の中に埋没した

俺への愛情なのであろうか?

涙すら流すことの無い、お前の底で

うずみ火がもえたつ。

お前の身体が

泪をながしている・・・」

まあ、「蛙」と似たような表現手法を用いようかと思った。

だが、こけた。

どうも、まだ、充電不足のようである。

posted by 憂生 at 09:47| Comment(0) | 寡黙 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

練る。プロトの一部になるか?

小さな唇の隙間がひらいて、

音にならない嗚咽が形に成る。

俺はそれを読みとる。

 

YO  SHI  HA  RU

確かにお前は

俺を認識してる。

空洞の向こうににげこんだまま、

お前の瞳が俺を映すことがないというのに、

このときだけ。

俺とお前がひとつのものになったときだけ、

お前は俺を知る。

お前を空洞の中に追い込んだ野蛮な獣と

同じ物で

お前とつながれているというのに、

お前は、それでも俺の名を呼ぶ。

一瞬の閃きの中、

お前は俺を認識する。

それを愛と呼ぶか、

渇括とよぶか。

あるいは、紅蓮の炎か。

一瞬の閃きはイナ妻のように

お前をつらぬく。

狂気の狭間、

肉欲だけが智恵子を

俺のものにする術になる。

posted by 憂生 at 09:42| Comment(0) | 寡黙 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

踊り娘


剣の舞を踊るサーシャの足がおちてゆくそのポジションを
見つめ続けた男は
やがて、
イワノフの手をシッカリと、握り締めた。

***出番を控えている義姉であるターニャの元に
サーシャの事実をつたえにいくことは、つらいことでもある。
だが、
キエフの大物舞踏家が、サーシャを預からせてくれという。
姉妹でありながら、
ターニャはこんな、地方の劇場まがいの
酒場の舞台から、抜け出ることも出来ないにくらべ、
妹の舞踏の技術は
世界を相手にする国立舞踏団の花形スターの目に十分な可能性を
秘めている。

イワノフがターニャに妹サーシャのチャンスをつげるのを、
渋りたくなるもうひとつの要因がある。
ターニャは今、この劇場のソロマドンナである。
が、それは、
ある一定の境界の中においてである。
ある時間までは純粋に舞踏、レビューで、舞台をかざるのであるが、
ある時間を過ぎると、
性的な刺激を内包する出し物に変わる。
簡単に言えば、
乳房をさらして、踊ることもざらであり、
そのサービスの見返りに客席から祝儀をもらう。
もちろん、それだけではない。
多くの場合、この舞台を布石にして、
パトロンを探すということである。

踊りだけで、ソロマドンナの位置に君臨してゆくことは、皆無に等しい。

ターニャは両親をウクライナの列車事故でなくし、
妹と二人きりになったとき、
好きだった踊りで身を立ててゆくことの出来る
この劇場に勤めだした。
それから、3年後に高等学校を卒業したサーシャもここに
つとめだしたのである。

そして、ターニャはかなり、早いうちから
ソロマドンナの地位を得たのであるが、
昨年末くらいから
客の人気にかげりがではじめてきた。
それでも、ソロマドンナの位置にターニャを座らせておいたのも、
イワノフの個人感情のせいである。
結婚してくれないか」
20歳以上年齢も違う。
ターニャが返事に戸惑うのもわかる。
「いそがなくていい」

と、いってはみたものの、
ターニャがこれ以上ソロマドンナを
張ってゆくことは困難になってきていた。
「どうするかね?アフタータイムにかわるか?」
つまり、舞台で胸をさらけだして踊るかときいている。

ターニャは
「え?」
と、声を上げた。

イワノフに、ターニャの驚きはなぜかわかる。
プロポーズした男が
なぜそんなことをターニャにきりだすのか?

***ぐっと息をのんで、イワノフをみたターニャの顔が思い出される。
プロポーズはプロポーズ。
ビジネスはビジネス。
割り切った考えを理解しろということが、土台むりであろうが、
イワノフの計算もある。
ターニャをおいつめてゆくことで、
イワノフとの生活がいかに安泰なものであるかを
しらせてゆこうと言うのである。
だが、残念なことに
ターニャをおいつめる者が自分であり、
救いの手を差し伸べるのも自分である。

海につきおとしておいて、
たすけてやろうかといっても、
自分で泳げるうちは
ターニャとて、イワノフにすがってきはすまい。

そして、サーシャのことから、ターニャはますます、おいつめられてゆくだろう。

舞踏家という夢を描くのはターニャとて、おなじであろうに、
ターニャのこの先は芸術とは、程遠い
色艶の世界しかない。

そこで、胸をさらけだして踊ることなど、させたくないのが、イワノフである。
だが、
いくら、イワノフがターニャをかばいたくとも、
出来ないことである。
踊り娘は他にもたくさんいる。
これ以上、イワノフのひいきで、ソロ・マドンナに据え置くことが、無理に
なってきているターニャの実力でしかない。

ターニャが踊りをつづけてゆくとしたら、
脱ぐしかないといって、過言でない。
身体を武器に踊りを担うしかないにくらべ、
サーシャは一流の舞踏家になれる素質を有している。

結婚を逃げ場にしてくれというわけではないが、
一人の女性の夢がついえてゆく。
そう思うとイワノフはターニャに平凡な結婚生活を送ってほしいと
考えたのである。
もちろん、二十歳も年齢が違うイワノフであるから、
ターニャの結婚相手に自分を考えることは、なかった。

だが、
ターニャに踊り娘としての限界、
ターニャの才能がそこまでのものでしかないことを
告げたとき、
イワノフは思わぬ告白をしていたのである。
「君がよければ、結婚してくれないか」
思わず口をついた言葉が先で
イワノフは、やっと自分のターニャへの気持ちを確信した。

心のそこのどこかで、
ターニャがサーシャでなかったことを喜びながら、
イワノフは
手短にサーシャをキエフの舞踏家に紹介したいきさつを話した。
ビデオに収めたサーシャの踊りが舞踏家の目に触れると、
幾日も経たないうちに
舞踏家自ら、ここに尋ねてきたのである。

「サーシャが?」
ターニャの顔が複雑にゆがんだ。
妹の才能が本物であることは
姉としてうれしい。
だが、同じ踊り娘として、
歯牙にもかけられない自分をいっそうにしらされる。

「サーシャには、まだ、はなしてないが、
君がサーシャの保護者である以上、
まず、君の同意が必要だと思う」
サーシャをキエフにいかせる。
それは、
サーシャが一流のプリマドンナになれるチャンス。
「サーシャの気持ちしだいです」
答えてから、ターニャはどこかで耳にしたせりふだと思った。
イワノフだ。
「踊りをつづけてゆくか、僕と結婚してくれるか、
君の気持ちしだいだ」
踊りを続けてゆく。イコール、結婚は断るという意味になるだろう。
逆に
結婚するといえば、踊りは続けてゆけない。

ターニャの迷いはそこにあったかもしれない。
踊りは続けたい。
だが、
自分の踊りはもう、踊りだけでは稼げる代物でなくなってきている。
踊りをつづけてゆくということは、
人前で、胸をさらけ出すということだ。
イワノフと一緒になれば、
彼の財力で
たとえば小さな養成所をつくって、
子供たちを指導するということで、舞踏にかかわってゆくことも出来る。

だが、そんなことよりも、
もう、売り物にならない自分のレベルをつきつけられ、
いま、また、
サーシャの才能を見せつけられた。

才能さえあれば・・・。

踊り続けてゆくことが出来るのに・・・。

あと、二月でソロマドンナの地位を手放すしかない。

イワノフの劇場をはなれ、
他の場所にいったとて、結果は同じ。
むしろ、もっと、ひどい境遇がまっているだろう。
踊り娘という名を語る陰売。
あるいは、
踊りを踊れる陰売という言い方が正解かもしれない。

才能がないものは、
どこまでも、おちるしかないのか。
サーシャが逆にそれを証明する。
才能があるものは、
どこまでものぼりつづけてゆける。

ターニャは、出番を控えるため、舞台のすそから
ステップに上がっていった。
心なしか張り詰めた表情が泣き出しそうにも見える。
「返事ははやいほうがいい」
イワノフは伝えると観客席に移っていった。

***舞台をはねて
二人のアパートに帰ってくるまで、
並んで歩きながら
ターニャの足取りが重い。
「姉さん?どうしたの?」
やはり、ソロマドンナ降格が応えているのだろうと、
サーシャは言葉を選ぶ。
「あたしは・・・アフタータイムの踊り手でも、
別にかまわないんじゃないかとおもうんだけどね」
悲しそうにうつむいたターニャにかまわず
サーシャの言葉が続く。
「姉さんはアフタータイムの踊り娘をばかにしてるし、
観客を馬鹿にしてるんだ」
ターニャの言葉が不思議で
サーシャは尋ねかえした。
「どういう意味だろう?」
「姉さんはアフタータイムの踊りが実力で成り立ってない。
踊りを見る目がない観客が女の裸を見に来てる。
そこで踊ればさらしものだとおもってるんだ」
サーシャに・・・何がわかるというんだろう?
ましてや、この子は間違っても
さらし物になることなんかない子だ。
もちろん、まだ・・・・サーシャは
キエフからの招待をしらないけれど。
「あなた・・・。じゃあ、胸をさらして、おどってゆける?」
「できるよ。あたしは、胸をさらすんじゃないもの。
踊りを踊るんだもの。
胸を出すのは衣装を着けてないと思うからおかしいのよ。
おっぱいっていう衣装をつけてるのよ」
確かに演目は胸をさらけて踊るにふさわしい
妖艶な音律をBGMにしている。
「あなた・・・」
本当に踊りがすきなんだと思う。
どんな場末にいてもこの子は
「踊る」んだ。
「今はさあ、ラインダンサーとか、十把一絡げの
端役でしかないけどさ、アフターでソロをはれっていわれたら、
そっちのほうがいいな。
そこから、チャンスをつかむことができるかもしれないもの」
サーシャの考えは若さゆえではあろう。
だが、
チャンス。
その言葉にターニャは話さなければならない
いろんなことを思い返してみた。
たとえば、イワノフのプロポーズ。
サーシャのキエフへの招待。
そして、自分の進退・・・。
これらすべてが
「チャンス」という紐でくくられる。
どうチャンスにしてゆくかで、
この先の運命も
ラッキーかアンラッキーに
分かれてゆく気がする。

サーシャのことは、簡単だろう。サーシャの決心ひとつだ。
自分がこの先どうするか。

ターニャはやっと、サーシャに
イワノフからのプロポーズを
話してみる気になった。

***安いアパートの二階の北の隅は
ただでさえ陽があたらないのに、
二人の留守で火の気の無い部屋は
いっそう、凍えている。
それでも、鍵を差し込む手をかじこませた姉妹が
やっと部屋の中に入るまで外気に晒される廊下の寒さに比べれば
部屋の中は安息地である。
中に入ればまずストーブをつけよう。
夕食には昨日のジャガイモのポトフが残っている。
ストーブの上でポトフが温まる間に
イワノフのプロポーズのことなど、話せるだろう。

ターニャがなにか、考えている様子を
察っしたサーシャはあけられたドアの中に入り込むと
一番先にストーブの火をつけに行った。
後から入ってきたターニャがポトフをストーブの上に置きかけると
サーシャはなにかいいたげな姉の話を催促した。
「食事はあとでいいよ。姉さん、なにか、はなしたいことがあるんでしょ?」

妹はいつもこうだ。
気になることを後回しにすることを嫌う。
「いいのかな?」
ポトフの鍋を見ながらターニャは
サーシャの空腹が気になった。
「いいよ」
やっぱり、後回しになるかと、
ポトフの鍋から目を離し
ターニャはまだ、温まりきらないストーブの前に
椅子をふたつ引っ張ってきた。
足を暖めながらサーシャに話そうと座り込んだ姉の横に
サーシャもすわりこんだが、
並んで話す形が不安定でサーシャは
椅子ごと持ち上げると
ターニャの顔が見えるように
向きを変えて座りなおした。
「で?」
「うん」
いきなり、イワノフのプロポーズのことを口にするのも
てれくさい物がある。
「なに?」
「うん。やっぱり・・・あなたの話からにしよう」
「え?なに?あたしの事もあるわけ?そんなことあとでいいよ」
「うん。でも・・・。姉さんの話に関係あることだから・・・」
先にサーシャがキエフ行きをどうするか、それを判ってからのほうが
いいだろうとターニャは
イワノフから聞かされたサーシャのチャンスを話すことにした。
イワノフがサーシャの舞台稽古をVTRにおさめ、
それを、キエフ在住の舞踏家に送った。
「ああ?あれ?剣の舞だったかな?
3回くらい・・・・おどらされたかなあ」
サーシャにも覚えがある。
「うん。その3回ともイワノフさんが取ってたんだって事も知ってる?」
「え?そりゃしらない。で?」
話の先を急がせるサーシャの目が輝いている。
「うん。ポジションが3回とも、1cmの狂いがないって・・」
「はあ?」
それがどうしたのだという?
サーシャにすればあるいは。当然だと思ったのか?
それよりも、その事実より先が問題だといいたいのかもしれない。
「うん。で、そのVTRをみた舞踏家というのが、「*****/名前・考え中」なんだよ・・」
「え?」
ターニャの口から告げられた大物舞踏家の名前に
サーシャが、そのまま、噴出して笑い始めた。
「やだな。舞踏家だっていうだけなら、あたしだって、
なにか、いい話かなって、おもわないでもないじゃない?
で、その天下の*****さまにVTRを見てもらった・・・」
出てきた名前が大物過ぎて
サーシャのわずかな期待がしぼんでしまった。
大体欠点を指摘するときは
長所を先にほめるのが筋だから、
この後に話される内容にも想像がつく。
それにしても、
「イワノフさんも何を思ってそんな大物のところに・・・」
ポジションが正確だからって、
そんなことくらいで驚かれてたら、
ポリジョイサーカスの綱渡りなんか、
正確なポジションが当たり前。
命がいくつあってもたりやしないだろう?
そんなことを考えたら特に驚くことでもない。

「イワノフさんの目は確かよ。*****はあなたをキエフの
*****育成所に入所させたいと、もうしこんできたのよ」

********育成所への招待?
飛び出してきた話が大きすぎて
サーシャにはこの話が真実であるとは思えない。
「まさか?
それだったら、なんで、******関係の人がじかに
あたしに話しにこないわけ?」
サーシャの疑念はもっともだと思う。
「いくら、イワノフさんが口をきいたからって、
あたしに断りもなし、入所を決定する権利はないわ」
サーシャは関係者が来ないわけを
そんなふうに、想像する。
でも、それは、本当のことだと信じたがってるサーシャだということにもなる。
そして、ターニャは
イワノフがサーシャに先に話さず
ターニャに任せた本当の原因を話すべききっかけなんだと思った。
「イワノフさんはまず、あなたが未成年だということ、
つまり、あたしがあなたの保護者だということを
尊重して、私から、あなたにきいてほしいといったの」
でも、それもおかしな言い訳だと思う。
だいいち、サーシャはイワノフにとって1従業員なんだ。
未成年であるといっても、自分で金をかせぎ、
きちんと生計を立てている以上
社会人。大人。1個人としてあつかわれるべきであろう。
「だったら、姉さんに話すときにあたしもよんでくれればよかったんじゃない?
変だよ?」
やっぱりサーシャは聡い。
淡い期待でも、目いっぱい膨らませれば、はじけたときは辛く痛い。
サーシャの防御本能が
美味い話をうのみにしちゃいけないと
サーシャを守ろうしている。
「あのね・・・」
ターニャは大きく息を吸い込んだ。
その息と一緒にじゃなけりゃ、思いが定まらぬ返事を持ってることでしかない
イワノフのプロポーズのことははなせそうになかった。
「姉さんもそのことをこれから、あなたに相談しようと思ってたんだけど、
イワノフさんが姉さんにあなたへの話を任せたのは、
あなたの進路によって、
姉さんがイワノフさんのプロポーズの返事を
どうするか、きめるだろうって、考えたんだと思うんだ」
とたんにサーシャが戸惑った顔をした。
話の筋が良くわからないのだ。
「イワノフさんが?姉さんにプロポーズをした?」
「そうよ」
「イワノフさんが?」
「そう」
「あの・・イワノフさんが・・・」
「・・・」
「え?で、姉さんは云ってっ言ってないってこと?」
自分の話が後回しになるのもそっちのけで、
イワノフのプロポーズに話が集中しだすのも
イワノフのプロポーズが意外過ぎたのだろうと思っていたターニャは、
「云」と言ってないのかとたずねたサーシャが逆に意外だった。
「あなたには、あたしが「云」と言うほうが、不思議じゃないってことだよね?」
サーシャはもう一度、自分の頭の中を見渡して
「云。そうだね」と、答えた

「なんで?」
ナゼ、あたしが云というわけ?
「なんで・・・って・・・」
サーシャは自分の頭の中を見回す。
「なんとなく・・・
う〜〜〜ん。イワノフさんは優しい目でいつも、姉さんをみてたし・・」
サーシャの言葉をきいた途端にターニャの反撃が始まりだす。
「優しい?
イワノフさんが?
わけないわ。
あの人は・・・・。
そうよ。
脅しよ。
自分と結婚しないなら、裸で踊るしかないって、
人の弱みに付け込んで
結婚をちらつかせて・・・・」
癇走って喋るターニャを呆れ顔でみていたサーシャが、そんなターニャに
「ようは、あたしには、ロマンチックにドラマチックにプロポーズしてくれなかった。
乙女の結婚への夢はプロポーズの一言から花開いていくのに
イワノフさんは夢を踏み潰す言い方しかしなかったって、
ようは、そういう不満を言ってる・・・・って聞こえるだけなんだけど?」
「え?」
あるいは図星であったのか、
この芬々たる思いはようは、サーシャの言うとおり?
思いを分析されて、
サーシャはその分析結果にいっそう戸惑った。

『じゃあ・・・私が優しく・・ロマンチックに・・・愛情一杯でプロポーズされてたら?』

云といったのだろうか?

ターニャの戸惑いを見透かして、サーシャが笑う。

「姉さんこそ踊りと結婚を天秤にかけてるんじゃない?
本当に踊りたいなら、踊ればいいし
結婚は踊りとは、別問題だよ」
サーシャに
「今更ながら、判っている。
当たり前の事じゃない」
と、ターニャが言い返すとサーシャは
かすかな笑いを浮かべた。
それは、どこか、自嘲めいた悲しい笑いにも、見えた。
「そうよね。
判っている。
あたしは姉さんみたいに、恵まれたプリマドンナじゃないから・・・。
どうにかして、踊りを続けていきたいって、
それが、いつでも、最初。
だから、たとえば、結婚?
そんな事ひとつだって、考えの中にはいってきやしないのよ。
でも、姉さんは、結婚を考えることが出来るじゃない?」
つまり、サーシャは「踊り」しかないのに、
ターニャは結婚を考えられる。
すなわち、その状況自体が結婚と踊りを天秤の台に載せているという事であろう。
サーシャの言い分に百歩譲って見たとて、
ターニャには譲れない部分がある。

「だけど、あたしは、確かに結婚と踊りを両手にもとうとはしている。
でも、結婚と踊りを天秤なんかにかけてはいないわ」
サーシャはいっそう、深いため息をついた。
「そうね・・・。
すくなくとも・・・そう、見えるわね・・・」
棘をふくんだように聞こえるのは
ターニャの受け止め方がわるいせいだろうか?
それとも、じっさい、わざと、サーシャは棘を含ませたのだろうか?
「それ?どういう意味?」
事と次第によっちゃあ赦さない。
ターニャの語気に怒りが見えると
サーシャはいっそう、淋しそうに笑った。
「姉さんに踊りしかなかったら、
イワノフさんのプロポーズを考える事もなかったと思う。眼中にも無いって、大慌てで断っていたと思う。でも、姉さんの中でこれ以上ソロマドンナを維持できない自分だと分かったとき
、結婚を考える姉さんになっていたと思う。
そして、相手がイワノフさんだから・・・。
姉さんの踊りがソロじゃ通じないと評価した相手だから、姉さんは踊りをとるか、結婚を取るか・・・迷っている。
踊りを取りたいのは、やまやまだろうけど、
もう、下降線を辿るしかない自分だと、
知ったとき、
姉さんは、結婚してもいいと思った。
でも・・・。
それは、ズバリ・・・。
結婚を逃げ場所にしてるとも思うし
自分で自分への評価を認めることにもなる。
だから・・・。
姉さん・・には、きつい事をいうけど、
姉さん・・・は、自分に才能が無いって認めたくなくて・・・
逃げ場所に思える結婚もさけようとしている」
返答に窮するというのが、まさに言いえているサーシャはターニャの様子をぐうと、奥歯をかんで見据えていたが、
「そんな結婚と踊りへの思い・・・
これは天秤状態・・・だよ」
サーシャの宣言にぐうの音もでないまま・・・ターニャは決心していた。
『問題は・・・評価じゃない。
私が踊り続けていたいか・・・どうか・・・』
サーシャのいいたい事はそうだろう。
俯いた顔が上に向けられると
ターニャははっきりと微笑んだ。
『サーシャ・・・ありがとう。
確かにあたしは、有頂天になりすぎていた。
どうにかして、おどれないか・・・
一番最初の
一番大事な心を置き去りにしていた』
胸をさらけてさえ、踊りで観客を魅了することさえ、できるかどうかもわからない。
そこまでの、レベルさえないといわれたも同然の自分が売りものにするのは、
裸踊り・・・。
そう考えるのも・・・。
あるいは・・・。
それでさえ・・・。
己の才能のなさをわかっているから・・・。
「サーシャ・・・やっぱり・・・あたしは
踊っていたい」
暗にイワノフのプロポーズを断るといい、
もうひとついえば、
アフタータイムで踊ると
ターニャは決心していた。

サーシャは無論、キエフ行きを承諾した。
「チャンスだと思う」
踊り続けていく人生への確実な布石。
そうなるのだろう。
「でも・・・あなた・・・それでいいの?」
年頃の女の子らしく、恋もしたかろう?
お洒落もしたかろう?
ターニャの仕送りなど、微々たるもので、
サーシャが踊りで稼げるようになるまで、
養成所でのレッスンとアルバイト。
それが、何年続くか・・・。
すぐプロになれるかもしれないし、
一生、芽がでないかもしれない・・・。

姉の心配を察すると
「確かにね・・。
あたしも、踊りをすてても良いと思えるほどの人にめぐり合えたら、どんなに良いかなって思わないでもないのよ。
朝・・・ベーコンエッグを焼いて
オニオンスープを添えて
ふたりで、パンがやけるのを待ちながら
とりとめない会話を交わす。
平凡でありきたりな風景だけど、
本当はとても手の届かない所にあるのかもしれない。・・・・あたしには・・・ね」
サーシャに比べればターニャの目の前に平凡な風景があって、ターニャが望みさえすれば、
あっさりと、手が届くものだ。
「姉さんね・・・。
イワノフさんのことは、断ろうって思うの」
くっと、唇を結んで
なにか、いいたい言葉を閉ざすと
サーシャは
「アフターで踊るの?」
ターニャの決意を確かめた。
「うん・・・」
「そう・・・」
短すぎる言葉で姉の決意に同意するサーシャが
ターニャには、不思議な気がした。
「それだけ?」
「うん。だって、どっちを選ぼうと
努力していくのは、姉さんだもの。
やっていきたいと思うことを選ぶのも、
姉さんだもの」
「ひとつだけ、きいていい?」
「ん?」
「あなた・・・ナゼ・・・
あたしが、イワノフさんのプロポーズに云というとおもったの?」
それは、さっきもきいてきたことだと、
サーシャは思った。
「だから・・・さっきも言ったように・・・イワノフさんは姉さんのことを愛してるんだろうって思った・・から」
「ばかね。それは、なぜ、イワノフさんがプロポーズをしたかってことでしょ?
あたしが聞いてるのは
なぜ、あたしが云というと思ったかって事・・・」
「ああ・・・」
確かに尋ねられたことへの、返答にはなって無かった。
「う〜〜〜ん」
ナゼだろう?
なぜ、ターニャが云というと思ったんだろう?
「だよね。
父親かと思うくらい年がはなれていて・・・
イワノフさんにとっては、
美人でスタイル抜群で若い・・こんな姉さんと一緒になりたいだろうねってのは、判るけど
逆を言えば・・・
凡庸でもう、50歳ちかい年齢・・
わざわざ、こんなじいさんと一緒になりたいと思うほうがわからないよね?」
「・・・」
だから、尋ねているんじゃないかと、切り返す言葉を飲んだのは
自身がイワノフのプロポーズになんの違和感も感じてなかったと気が着いたからだった。
「たぶん・・ね。
姉さん・・一番大変だったから・・・。
ウクライナの列車事故で・・父さんも母さんも死んじゃって、あたしのために、
姉さんが父さんのかわりに稼いで、
あたしのこと、支えてくれてた。
だから、姉さんは甘えたい時にも、頼りたい時にも、ずっとひとりでがんばってたから・・・。だから・・・。
ひょっとして、イワノフさんに、父さんみたいに甘え、頼りたい姉さんの底の弱さ?
そんなのを・・・イワノフさんになら見せられる。イワノフさんなら頼れる。
あたしには、そう・・・みえたのかもしれない。
だから、云というっておもったのかもしれない」

posted by 憂生 at 09:37| Comment(0) | ・・・踊り娘・・・ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年05月24日

「なんで?」
ナゼ、あたしが云というわけ?
「なんで・・・って・・・」
サーシャは自分の頭の中を見回す。
「なんとなく・・・
う〜〜〜ん。イワノフさんは優しい目でいつも、姉さんをみてたし・・」
サーシャの言葉をきいた途端にターニャの反撃が始まりだす。
「優しい?
イワノフさんが?
わけないわ。
あの人は・・・・。
そうよ。
脅しよ。
自分と結婚しないなら、裸で踊るしかないって、
人の弱みに付け込んで
結婚をちらつかせて・・・・」
癇走って喋るターニャを呆れ顔でみていたサーシャが、そんなターニャに
「ようは、あたしには、ロマンチックにドラマチックにプロポーズしてくれなかった。
乙女の結婚への夢はプロポーズの一言から花開いていくのに
イワノフさんは夢を踏み潰す言い方しかしなかったって、
ようは、そういう不満を言ってる・・・・って聞こえるだけなんだけど?」
「え?」
あるいは図星であったのか、
この芬々たる思いはようは、サーシャの言うとおり?
思いを分析されて、
サーシャはその分析結果にいっそう戸惑った。
 
『じゃあ・・・私が優しく・・ロマンチックに・・・愛情一杯でプロポーズされてたら?』
 
云といったのだろうか?
 
ターニャの戸惑いを見透かして、サーシャが笑う。
 
「姉さんこそ踊りと結婚を天秤にかけてるんじゃない?
本当に踊りたいなら、踊ればいいし
結婚は踊りとは、別問題だよ」
 
 
posted by 憂生 at 00:59| Comment(0) | ・・・踊り娘・・・ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

踊り娘

剣の舞を踊るサーシャの足がおちてゆくそのポジションを
見つめ続けた男は
やがて、
イワノフの手をシッカリと、握り締めた。

***出番を控えている義姉であるターニャの元に
サーシャの事実をつたえにいくことは、つらいことでもある。
だが、
キエフの大物舞踏家が、サーシャを預からせてくれという。
姉妹でありながら、
ターニャはこんな、地方の劇場まがいの
酒場の舞台から、抜け出ることも出来ないにくらべ、
妹の舞踏の技術は
世界を相手にする国立舞踏団の花形スターの目に十分な可能性を
秘めている。

イワノフがターニャに妹サーシャのチャンスをつげるのを、
渋りたくなるもうひとつの要因がある。
ターニャは今、この劇場のソロマドンナである。
が、それは、
ある一定の境界の中においてである。
ある時間までは純粋に舞踏、レビューで、舞台をかざるのであるが、
ある時間を過ぎると、
性的な刺激を内包する出し物に変わる。
簡単に言えば、
乳房をさらして、踊ることもざらであり、
そのサービスの見返りに客席から祝儀をもらう。
もちろん、それだけではない。
多くの場合、この舞台を布石にして、
パトロンを探すということである。

踊りだけで、ソロマドンナの位置に君臨してゆくことは、皆無に等しい。

ターニャは両親をウクライナの列車事故でなくし、
妹と二人きりになったとき、
好きだった踊りで身を立ててゆくことの出来る
この劇場に勤めだした。
それから、3年後に高等学校を卒業したサーシャもここに
つとめだしたのである。

そして、ターニャはかなり、早いうちから
ソロマドンナの地位を得たのであるが、
昨年末くらいから
客の人気にかげりがではじめてきた。
それでも、ソロマドンナの位置にターニャを座らせておいたのも、
イワノフの個人感情のせいである。
結婚してくれないか」
20歳以上年齢も違う。
ターニャが返事に戸惑うのもわかる。
「いそがなくていい」

と、いってはみたものの、
ターニャがこれ以上ソロマドンナを
張ってゆくことは困難になってきていた。
「どうするかね?アフタータイムにかわるか?」
つまり、舞台で胸をさらけだして踊るかときいている。

ターニャは
「え?」
と、声を上げた。

イワノフに、ターニャの驚きはなぜかわかる。
プロポーズした男が
なぜそんなことをターニャにきりだすのか?

***ぐっと息をのんで、イワノフをみたターニャの顔が思い出される。
プロポーズはプロポーズ。
ビジネスはビジネス。
割り切った考えを理解しろということが、土台むりであろうが、
イワノフの計算もある。
ターニャをおいつめてゆくことで、
イワノフとの生活がいかに安泰なものであるかを
しらせてゆこうと言うのである。
だが、残念なことに
ターニャをおいつめる者が自分であり、
救いの手を差し伸べるのも自分である。

海につきおとしておいて、
たすけてやろうかといっても、
自分で泳げるうちは
ターニャとて、イワノフにすがってきはすまい。

そして、サーシャのことから、ターニャはますます、おいつめられてゆくだろう。

舞踏家という夢を描くのはターニャとて、おなじであろうに、
ターニャのこの先は芸術とは、程遠い
色艶の世界しかない。

そこで、胸をさらけだして踊ることなど、させたくないのが、イワノフである。
だが、
いくら、イワノフがターニャをかばいたくとも、
出来ないことである。
踊り娘は他にもたくさんいる。
これ以上、イワノフのひいきで、ソロ・マドンナに据え置くことが、無理に
なってきているターニャの実力でしかない。

ターニャが踊りをつづけてゆくとしたら、
脱ぐしかないといって、過言でない。
身体を武器に踊りを担うしかないにくらべ、
サーシャは一流の舞踏家になれる素質を有している。

結婚を逃げ場にしてくれというわけではないが、
一人の女性の夢がついえてゆく。
そう思うとイワノフはターニャに平凡な結婚生活を送ってほしいと
考えたのである。
もちろん、二十歳も年齢が違うイワノフであるから、
ターニャの結婚相手に自分を考えることは、なかった。

だが、
ターニャに踊り娘としての限界、
ターニャの才能がそこまでのものでしかないことを
告げたとき、
イワノフは思わぬ告白をしていたのである。
「君がよければ、結婚してくれないか」
思わず口をついた言葉が先で
イワノフは、やっと自分のターニャへの気持ちを確信した。

心のそこのどこかで、
ターニャがサーシャでなかったことを喜びながら、
イワノフは
手短にサーシャをキエフの舞踏家に紹介したいきさつを話した。
ビデオに収めたサーシャの踊りが舞踏家の目に触れると、
幾日も経たないうちに
舞踏家自ら、ここに尋ねてきたのである。

「サーシャが?」
ターニャの顔が複雑にゆがんだ。
妹の才能が本物であることは
姉としてうれしい。
だが、同じ踊り娘として、
歯牙にもかけられない自分をいっそうにしらされる。

「サーシャには、まだ、はなしてないが、
君がサーシャの保護者である以上、
まず、君の同意が必要だと思う」
サーシャをキエフにいかせる。
それは、
サーシャが一流のプリマドンナになれるチャンス。
「サーシャの気持ちしだいです」
答えてから、ターニャはどこかで耳にしたせりふだと思った。
イワノフだ。
「踊りをつづけてゆくか、僕と結婚してくれるか、
君の気持ちしだいだ」
踊りを続けてゆく。イコール、結婚は断るという意味になるだろう。
逆に
結婚するといえば、踊りは続けてゆけない。

ターニャの迷いはそこにあったかもしれない。
踊りは続けたい。
だが、
自分の踊りはもう、踊りだけでは稼げる代物でなくなってきている。
踊りをつづけてゆくということは、
人前で、胸をさらけ出すということだ。
イワノフと一緒になれば、
彼の財力で
たとえば小さな養成所をつくって、
子供たちを指導するということで、舞踏にかかわってゆくことも出来る。

だが、そんなことよりも、
もう、売り物にならない自分のレベルをつきつけられ、
いま、また、
サーシャの才能を見せつけられた。

才能さえあれば・・・。

踊り続けてゆくことが出来るのに・・・。

あと、二月でソロマドンナの地位を手放すしかない。

イワノフの劇場をはなれ、
他の場所にいったとて、結果は同じ。
むしろ、もっと、ひどい境遇がまっているだろう。
踊り娘という名を語る陰売。
あるいは、
踊りを踊れる陰売という言い方が正解かもしれない。

才能がないものは、
どこまでも、おちるしかないのか。
サーシャが逆にそれを証明する。
才能があるものは、
どこまでものぼりつづけてゆける。

ターニャは、出番を控えるため、舞台のすそから
ステップに上がっていった。
心なしか張り詰めた表情が泣き出しそうにも見える。
「返事ははやいほうがいい」
イワノフは伝えると観客席に移っていった。

***舞台をはねて
二人のアパートに帰ってくるまで、
並んで歩きながら
ターニャの足取りが重い。
「姉さん?どうしたの?」
やはり、ソロマドンナ降格が応えているのだろうと、
サーシャは言葉を選ぶ。
「あたしは・・・アフタータイムの踊り手でも、
別にかまわないんじゃないかとおもうんだけどね」
悲しそうにうつむいたターニャにかまわず
サーシャの言葉が続く。
「姉さんはアフタータイムの踊り娘をばかにしてるし、
観客を馬鹿にしてるんだ」
ターニャの言葉が不思議で
サーシャは尋ねかえした。
「どういう意味だろう?」
「姉さんはアフタータイムの踊りが実力で成り立ってない。
踊りを見る目がない観客が女の裸を見に来てる。
そこで踊ればさらしものだとおもってるんだ」
サーシャに・・・何がわかるというんだろう?
ましてや、この子は間違っても
さらし物になることなんかない子だ。
もちろん、まだ・・・・サーシャは
キエフからの招待をしらないけれど。
「あなた・・・。じゃあ、胸をさらして、おどってゆける?」
「できるよ。あたしは、胸をさらすんじゃないもの。
踊りを踊るんだもの。
胸を出すのは衣装を着けてないと思うからおかしいのよ。
おっぱいっていう衣装をつけてるのよ」
確かに演目は胸をさらけて踊るにふさわしい
妖艶な音律をBGMにしている。
「あなた・・・」
本当に踊りがすきなんだと思う。
どんな場末にいてもこの子は
「踊る」んだ。
「今はさあ、ラインダンサーとか、十把一絡げの
端役でしかないけどさ、アフターでソロをはれっていわれたら、
そっちのほうがいいな。
そこから、チャンスをつかむことができるかもしれないもの」
サーシャの考えは若さゆえではあろう。
だが、
チャンス。
その言葉にターニャは話さなければならない
いろんなことを思い返してみた。
たとえば、イワノフのプロポーズ。
サーシャのキエフへの招待。
そして、自分の進退・・・。
これらすべてが
「チャンス」という紐でくくられる。
どうチャンスにしてゆくかで、
この先の運命も
ラッキーかアンラッキーに
分かれてゆく気がする。

サーシャのことは、簡単だろう。サーシャの決心ひとつだ。
自分がこの先どうするか。

ターニャはやっと、サーシャに
イワノフからのプロポーズを
話してみる気になった。

***安いアパートの二階の北の隅は
ただでさえ陽があたらないのに、
二人の留守で火の気の無い部屋は
いっそう、凍えている。
それでも、鍵を差し込む手をかじこませた姉妹が
やっと部屋の中に入るまで外気に晒される廊下の寒さに比べれば
部屋の中は安息地である。
中に入ればまずストーブをつけよう。
夕食には昨日のジャガイモのポトフが残っている。
ストーブの上でポトフが温まる間に
イワノフのプロポーズのことなど、話せるだろう。

ターニャがなにか、考えている様子を
察っしたサーシャはあけられたドアの中に入り込むと
一番先にストーブの火をつけに行った。
後から入ってきたターニャがポトフをストーブの上に置きかけると
サーシャはなにかいいたげな姉の話を催促した。
「食事はあとでいいよ。姉さん、なにか、はなしたいことがあるんでしょ?」

妹はいつもこうだ。
気になることを後回しにすることを嫌う。
「いいのかな?」
ポトフの鍋を見ながらターニャは
サーシャの空腹が気になった。
「いいよ」
やっぱり、後回しになるかと、
ポトフの鍋から目を離し
ターニャはまだ、温まりきらないストーブの前に
椅子をふたつ引っ張ってきた。
足を暖めながらサーシャに話そうと座り込んだ姉の横に
サーシャもすわりこんだが、
並んで話す形が不安定でサーシャは
椅子ごと持ち上げると
ターニャの顔が見えるように
向きを変えて座りなおした。
「で?」
「うん」
いきなり、イワノフのプロポーズのことを口にするのも
てれくさい物がある。
「なに?」
「うん。やっぱり・・・あなたの話からにしよう」
「え?なに?あたしの事もあるわけ?そんなことあとでいいよ」
「うん。でも・・・。姉さんの話に関係あることだから・・・」
先にサーシャがキエフ行きをどうするか、それを判ってからのほうが
いいだろうとターニャは
イワノフから聞かされたサーシャのチャンスを話すことにした。
イワノフがサーシャの舞台稽古をVTRにおさめ、
それを、キエフ在住の舞踏家に送った。
「ああ?あれ?剣の舞だったかな?
3回くらい・・・・おどらされたかなあ」
サーシャにも覚えがある。
「うん。その3回ともイワノフさんが取ってたんだって事も知ってる?」
「え?そりゃしらない。で?」
話の先を急がせるサーシャの目が輝いている。
「うん。ポジションが3回とも、1cmの狂いがないって・・」
「はあ?」
それがどうしたのだという?
サーシャにすればあるいは。当然だと思ったのか?
それよりも、その事実より先が問題だといいたいのかもしれない。
「うん。で、そのVTRをみた舞踏家というのが、「*****/名前・考え中」なんだよ・・」
「え?」
ターニャの口から告げられた大物舞踏家の名前に
サーシャが、そのまま、噴出して笑い始めた。
「やだな。舞踏家だっていうだけなら、あたしだって、
なにか、いい話かなって、おもわないでもないじゃない?
で、その天下の*****さまにVTRを見てもらった・・・」
出てきた名前が大物過ぎて
サーシャのわずかな期待がしぼんでしまった。
大体欠点を指摘するときは
長所を先にほめるのが筋だから、
この後に話される内容にも想像がつく。
それにしても、
「イワノフさんも何を思ってそんな大物のところに・・・」
ポジションが正確だからって、
そんなことくらいで驚かれてたら、
ポリジョイサーカスの綱渡りなんか、
正確なポジションが当たり前。
命がいくつあってもたりやしないだろう?
そんなことを考えたら特に驚くことでもない。

「イワノフさんの目は確かよ。*****はあなたをキエフの
*****育成所に入所させたいと、もうしこんできたのよ」

********育成所への招待?
飛び出してきた話が大きすぎて
サーシャにはこの話が真実であるとは思えない。
「まさか?
それだったら、なんで、******関係の人がじかに
あたしに話しにこないわけ?」
サーシャの疑念はもっともだと思う。
「いくら、イワノフさんが口をきいたからって、
あたしに断りもなし、入所を決定する権利はないわ」
サーシャは関係者が来ないわけを
そんなふうに、想像する。
でも、それは、本当のことだと信じたがってるサーシャだということにもなる。
そして、ターニャは
イワノフがサーシャに先に話さず
ターニャに任せた本当の原因を話すべききっかけなんだと思った。
「イワノフさんはまず、あなたが未成年だということ、
つまり、あたしがあなたの保護者だということを
尊重して、私から、あなたにきいてほしいといったの」
でも、それもおかしな言い訳だと思う。
だいいち、サーシャはイワノフにとって1従業員なんだ。
未成年であるといっても、自分で金をかせぎ、
きちんと生計を立てている以上
社会人。大人。1個人としてあつかわれるべきであろう。
「だったら、姉さんに話すときにあたしもよんでくれればよかったんじゃない?
変だよ?」
やっぱりサーシャは聡い。
淡い期待でも、目いっぱい膨らませれば、はじけたときは辛く痛い。
サーシャの防御本能が
美味い話をうのみにしちゃいけないと
サーシャを守ろうしている。
「あのね・・・」
ターニャは大きく息を吸い込んだ。
その息と一緒にじゃなけりゃ、思いが定まらぬ返事を持ってることでしかない
イワノフのプロポーズのことははなせそうになかった。
「姉さんもそのことをこれから、あなたに相談しようと思ってたんだけど、
イワノフさんが姉さんにあなたへの話を任せたのは、
あなたの進路によって、
姉さんがイワノフさんのプロポーズの返事を
どうするか、きめるだろうって、考えたんだと思うんだ」
とたんにサーシャが戸惑った顔をした。
話の筋が良くわからないのだ。
「イワノフさんが?姉さんにプロポーズをした?」
「そうよ」
「イワノフさんが?」
「そう」
「あの・・イワノフさんが・・・」
「・・・」
「え?で、姉さんは云ってっ言ってないってこと?」
自分の話が後回しになるのもそっちのけで、
イワノフのプロポーズに話が集中しだすのも
イワノフのプロポーズが意外過ぎたのだろうと思っていたターニャは、
「云」と言ってないのかとたずねたサーシャが逆に意外だった。
「あなたには、あたしが「云」と言うほうが、不思議じゃないってことだよね?」
サーシャはもう一度、自分の頭の中を見渡して
「云。そうだね」と、答えた
***

posted by 憂生 at 00:30| Comment(0) | TrackBack(0) | ・・・踊り娘・・・ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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